胆管細胞癌

去る7月、任天堂の岩田社長がお亡くなりになりました。
そして先月、女優の川島なお美さんも逝去されました。
1月には柔道家の斉藤仁さんも逝去されました。
ご冥福をお祈り申し上げますm(_ _)m

奇しくもお三方とも50代半ばという若さで、しかも同じ病気でした。
その病名は胆管癌
手術に耐えられない様な高齢でもないのに、どうにか助かる道は無かったの?と思った方も多いと思います。
しかし実際この癌は他の部位の癌とは違い、予後は極めて不良です。
理由は、まず早期発見できるケースが少ない事、そして放射線治療も抗癌剤治療も効かない細胞であるためです。
そして他の一般的な癌とは違い、丸っこい塊状で存在するのではなく早期からインクの様にベターっと周囲に広がっていきリンパ節などに転移していきます。しかもそのくせ非常にカチカチで石の様に固く、薬剤が浸透していきません。
実際、斉藤仁さんの場合、最終的な死因は「癌性胸膜炎」すなわち肝臓の上の横隔膜を超えて肺の周りにまで浸潤し、肺を押しつぶされて死亡したと言う事ですから、いかに手に負えない暴れ様かということが解ります。
なので手術で取りきれる程度の早期の進行度で偶然見つかったケースでしか治癒は望めないのです。

胆管細胞癌 (4)
胆管といっても肝外に出ている総胆管みたいに太くて独立した管の部分ならまだ手術し易いです。
が、まだ合流する前の細かく枝分かれしている「肝内胆管」部分に発生するとお手上げになり易い。
本来、消化酵素である「胆汁」は肝臓の細胞が作成します。その液を肝内胆管に流し込んで最終的に一本の総胆管に合流し、胆嚢に液を貯めて、食べ物が胃から十二指腸に流れてくるとそれにブチューッとかける。
そういうシステムです。
なので上流の肝内胆管に癌が発生するとすぐに周りの肝臓組織に「浸潤」してしまうわけです。
そうなると下流の総胆管みたいにプチンと切って繋いで終わり。というわけにはいきません。

胆管細胞癌 (3)
その付近の肝臓組織や血管などをまとめてガバッと広範囲に切除する必要があります。
ガバッと。言うは簡単ですが行うは難し。

胆管細胞癌 (1)
肝臓というのは血管や胆管など「脈管」の塊の様な「実質臓器」です。
(対するは胃や腸などの「管腔臓器」ね)
スプーンでスイカをガバッとくり抜くような感じで切除したらたちまち大出血して死亡確定です。
なので細い脈管を一本一本「結紮」しながらチビチビと切除しなければならなく、それはもう気の遠くなる作業です。
でも肝細胞癌(肝癌)の治療ではその「肝切除術」という手術をやるのが一般的です。
肝細胞癌は結構きれいな球形で、被膜に覆われて存在している事が多く、その付近さえ切除すれば治癒が望めるからです。
ですが胆管細胞癌だと脈管に発生した癌ですので、その時点でその中の液を通して周囲に「浸潤」「転移」しているも同然。
だから発見時、既に肝臓全体に胆管癌細胞が散らばっていると考えられます。
じゃあいっそのこと、肝臓ごと全部切除しちゃう?
無理です。人は肝臓なしでは生きていけません。腎臓や肺臓みたいにスペアも無いですし、膵臓みたいに全摘後にホルモン注射や薬剤内服で代理可能な臓器でもないのです。
肝臓が無くなると有毒物質の解毒もできなくなり、あっという間に脳に毒が回って意識混濁して死亡します。
また人体の構成成分であるタンパク質も合成できず全身が腐って朽ち果てます。
それに肝臓から遠く離れた臓器に遠隔転移が有る場合は原発巣を切除しても既に意味は無く、いたずらに寿命を縮めるだけになります。
じゃあ臓器移植? どこに貴重な肝臓を分けてくれる人が居ますか?
仮に家族から「生体肝移植」を受けるとしても、腫瘍が確実に肝臓内だけに限局しているという条件を満たしていなければ、無理に強行しても術後の免疫抑制療法により余計に残存癌細胞が増殖してしまいます。

なので、進行した胆管癌に打つ手がないのが現状です。
罹患しない様に、また早期に発見する様に努めるしか無いわけですが、さてどうやって予防したら良いのでしょうか?
そもそも発生する原因は何なのでしょうか?
川島さんの場合、「私の血管にはワインが流れているの。」発言から、いかにも酒の飲み過ぎが原因であるかの様に報道したマスコミも有りましたが、はっきり言ってデタラメです。
酒の飲み過ぎでアルコール性肝炎になって肝硬変になって肝細胞癌になる。それは正しいですが胆管細胞癌は全く別の癌です。
これといった決定的な原因物質とか習慣とか遺伝子が同定されているわけではありません。
唯一同定されたのは、印刷業に従事する人はジクロロメタン・ジクロロプロパンという化学物質に曝露されて高確率で胆管癌を発生した。というお話だけですね。
なので、一般的には誰がなり易いとかなり難いとか予想をつけることはできません。
比較的レアな癌ではあるものの、逆に言えば誰にでも発生する可能性があるわけです。
そもそも「癌」とはなんぞや?というと、要するに自分自身の細胞が、何らかのエラーを起こして暴走し、無限に細胞分裂する様になってしまった物。他所から来た物ではなく、元々自分の細胞なので排除する事が出来ないのです。

もしも自分が胆管癌に罹患しているとしたら?
手術可能な早期ステージの状態で発見する事が最も大事になります。
自覚症状が出てからでは手遅れです。自覚症状すなわち黄疸ですが、これは下流の総胆管付近まで癌が浸潤してその内腔を塞いでしまい黄色の胆汁が血管を通して全身に逆流している状態(閉塞性黄疸)なわけです。
癌細胞混じりの胆汁が全身に逆流。
それが何を意味するかは言わずもがな。

なので助かるとしたら、まだ自覚症状が何も無いステージの時という事になります。
見つけるには?
定期的(最低、年一回)に検査を受けるのが大事でしょうね。
具体的には腹部エコーが妥当でしょうか。
「人間ドック」なら必ずメニューに入っています。一般的な定期健診の法定メニューには入っていません。
社員の健康管理に関心の高い会社ならオプションとして項目に入れている事もありますが。
定健で測る項目で異常が出るとしたらせいぜいγ-GTPがやや高いとかそんな程度かな?
でもそれだけで即「胆管癌の疑い有り」などと検査結果に書くのは飛躍し過ぎです。
肝炎ではないのでGOTやGPTで引っかかる事はありません。
胆管癌に特異な腫瘍マーカーも現在ありません。
無侵襲で手軽に実施できて、かつ得られる情報が多い検査となるとやはりエコーだと思います。

胆管細胞癌 (2)
この様に綺麗に肝内の胆管が描出されるなら正常。
胆管癌があると壁が凸凹になっていたり一部だけ膨張していたりと何らかの異常が見つかるはず。
(この画像の示してる物は本当は血管ですがイメージとして解りやすいのであえてこれを貼りました)

まだ手術で治癒が望めるステージなのであれば積極的に可及的早期に外科治療を受けるべきです。
切らずに民間療法などに頼ったりすると取り返しのつかない事態に陥ります。
本人が渋っていても家族は首に縄をつけてでも病院に連れて行く。ぐらいの覚悟でね。

最後に、分類というか名称について。
「胆管癌」と言ったり「胆管細胞癌」と言ったり統一性が無いな。と思った方は鋭い。
実は二通りの分類が有るからややこしいのです。
一つは部位による分類。言わば癌が発生した住所がどこか。って事。
それだと、上のイラストに倣って「肝内胆管癌」「中部胆管癌」「下部胆管癌」などと分類されます。
更に、肝内胆管癌に至っては「原発性肝癌」の一部に含めます。
これが頭こんがらがる原因。
原発性とは、他所から転移してきた物ではなくそこで生まれた物という事。
確かにパッと見た目では肝臓内に発生した癌ですので「肝癌」の一部とも言えましょう。
しかしながら、肝癌と言えば普通は「肝細胞癌(HCC)」の事を指します。
前述の様にかなり増殖の仕方など性格の違う癌です。
だから、住所ではなく、癌細胞の種類が何なのかによる分類のみにする方が
「肝細胞癌」か「胆管細胞癌」の二種類だけになってシンプルな気がします。
まずそのどちらなのかをハッキリさせ、次にどの部位にできているのかを書く。
それがいいのではないでしょうか。

まあ、「実は肝内胆管癌は肝細胞を暴走させる事でも作れる」などという、
これまでの常識をひっくり返す様な論文も出ているので、今後大きく分類法や治療法なども変わっていく可能性が有りますけどね。

余談。
いつかは、
「肝臓+胆嚢+膵臓+十二指腸+胃+腹部大動脈+大静脈+門脈+横隔膜+肺+胸膜」合併切除術
なんていうとんでもない手術とかも行われる時代が来るかな?
それすなわち「人工肝臓」「人工肺臓」の様な物を作りだしてそれとまるまる置換してしまうという術式なのですが、
もはやそれは内臓のほとんどが機械というサイボーグでしょうね。
それか、自分の万能細胞からあらゆる臓器の新品を作成しておいて、古くなったり癌化したら交換する。
まるで漫画の世界ですが、あながち実現不可能な話でもないと思う。理論上は。
ただし脳だけは取り替えたら「自分」じゃなくなりますので、これだけは当面どうしようもなさそう。

Posted by れいな on 16.2015   0 comments
Category :学術的日記

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